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その5 ★ 本買い ★

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夏子

通常 その5 ★ 本買い ★

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - | 投稿日時 2005/8/7 23:08
夏子  半人前   投稿数: 22
私達小学校時代の教科書は黒表紙で、定価七,八銭位で修身《しゅうしん=旧制の学校の教科、忠義・孝行・勤勉など教えた。第2次世界大戦後廃止、道徳となる》・算術《さんじゅつ=算数》・国語・書き方《習字》手本。上級になれば歴史・地理・理科・図画手本等で、当時は徒歩三里(十二キロ)米子の今井書店まで出かけて購入したものだ。

第三学期春の彼岸《ひがん=春分の日前後》頃になると、本買いといって上級生が隣り近所の下級生を引率して本買いに行く日取りを計画始め出す。一方には古本をゆずり受ける交渉もはじまる。

いよいよ三月末になると麦の芽は伸び出し、気候もよくなり大抵《たいてい》五・六人位一団となり、遠足姿で弁当を用意して草履《ぞうり》はき浜街道(夏子注:境港―米子間の当時の幹線道路)を南進、和田・富益・夜見と過ぎ、浜第一の橋、浜橋にかかる。

浜では橋という橋に見当たらないものが欄干《らんかん=てすり》つき大橋だ。「あいきょう、おっきな橋だのー」(夏子注:「あれまあ、大きな橋だなあ」)誰かがいう。社会は一段と広まっていく。

三本松付近になると、やや町近く足は勇み、糺山に到着する。砂山、山上に神社があり眺望よく小憩には最適地だ。町に並ぶ飲食店は浜街道を往来する人達の休憩場で、一杯《=飲酒》を始め稲荷寿司《いなりずし》、豆腐。特に「いただき」(夏子注:郷土料理。油揚げの中に米などを詰めて煮たもの)等の珍品は賑わしき風景で、米子の出口という場所だ。

 子供達は糺山の山上、大人は並ぶ飲食店でそれぞれ腹を整えて米子の町に入場が常であった。

いよいよ立町を進み四ツ角を左に曲がって尾高町にある今井書店、店は古風な畳敷き前掛け姿の店員さんが数人、係の店員さんに愛労校何学年というと、高く積んである本を上からとってくれる。

計算をすませ、一ヶ年待望した教科書を風呂敷《ふろしき》包みにし、本買いを終って勝田(夏子注:かんだ)神社に急ぐ。勝田神社は米子、浜の目の崇敬《すうけい=うやまう》の神社であるので、一同賽銭《さいせん》を捧げて礼拝すませ、裏山(勝田山)に登る。三、四十米の小山なれど米子市街見下ろされ、再び腰の弁当をひらく。

昼食終って水晶探し。小さい水晶を一つでも見つければ大変だ。米粒位の水晶二、三ヶで満足帰途につく。子供達は何だか鉱物には魅力があった。綿に包んで保存、黄銅鉱でも手にしたら金こん(夏子注:金のかたまり、の意味でしょう)だといって鬼の首でも捕ったように大切にした。

新しい教科書、米子の町の見物、勝田山の水晶探し、とても想い出ある楽しい公認の行事であった。

新学期がやって来るまでには何べんとなく新しい本に眼を通し暗記の状態まで進み、親は勉強出来たと喜ぶ顔は滑稽《こっけい》だ。

今は国庫で教科書配給となり学校で頂戴《ちょうだい=頂く》とは時代の変遷《へんせん=移り変わり》の姿で、義務制国庫負担法は有難いことながら子供の夢は一つ消えたようである。


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